ぽとりと落ちたノスタルジア

最近の日記は数年前の日記を書いている。時々リアルタイム日記を挟みます。

カルピスはお日様の匂い

猫日記213。


#姉の重すぎる愛と王子カルピスの憂鬱な日常1




猫が好きな人は皆、猫がものすごくいい匂いがすると言う。私もそう思う。



高校生の時に家にいた猫はオスのシャム猫風。
名前はカルピス。愛称カル。
カルピスに近づくとものすごくいい匂いがした。
干したてのお布団みたいな匂いだったと思う。



カルピスが亡くなったのは、20年前のちょうど今頃の季節。
もらわれてきて4年目の春。
すごく短命な猫だった。






カルピスはずば抜けた愛らしさを持った猫だった。
どちらかというと、美しいというよりは可愛らしい猫だったけど、
大変清らかな雰囲気の猫で、容姿端麗だった。(※写真は全てイメージです。)



子猫の時は目がうっすら青かったので、シャム猫特有のものだと思っていたけど、
成長すると共にそれほど青くなくなっていった。
当時はこれがキトンブルーだと知らなかった。




あそこまで可愛い猫にはめったに出会えない。
YouTube上とかではずば抜けて可愛い猫が何匹かいるけど、現実世界ではそうそう出会えない。



そしてカルピスはどんなシャム猫ともシャム風猫ともぜんぜん似ていない。少し風変わりだった。



そんなカルピスだが、容姿と同じかそれ以上に性格も素晴らしかった。
大人しく優しい性質で、すごく、性格がよかった。


しかも自分が可愛いという事に全くきづいていない。
可愛いと誉め讃えられることにあんまり興味がないのだ。


メス猫の様な澄んだ綺麗な声をしていたが、めったに鳴かず、寡黙な男子だった。
自分から人に話しかけるということはほとんどしないが、皆がカルピスに声を掛ける。
まるで王子様だ。だから別名王子だった。



高校生橘「ただいまー。あれ王子は?」
お母さん「王子出掛けた。」
ばあちゃん「王子だって自由に遊びたいでしょうよ。ほっておきなさい。」



こんな会話が日常だった。
ばあちゃんはカルピスの事を、
「いるだけで皆に声をかけられ可愛がられる幸せ者」とよく言っていた。
カルピスはその事について特になんとも思ってないようだった。





カルピスはとても素直な性格だったので、自分を尊重してくれ、
友人の様に扱ってくれる人に対しては惜しみ無い愛情表現をする猫だった。
普段はほとんど声を発しないのに、本当に嬉しい時はありえないほど鳴いた。


カルピスはまるでメスのように小柄で華奢。
あまり外国の猫っぽくない動きをする猫で、見た目に反して日本猫っぽかった。
そしてあんまり運動が得意ではない。
高さのあるところからジャンプするときも、
慎重に足踏みしながら心の準備をしてから跳んでいた。
しかもかならず「モー」と掛け声をしながら。
本当に少し風変わりな猫だった。




ある時、カルピスがまる1日か2日くらい帰ってこなかったので、家族みんなで探しに行った。
そしたらなんと裏の林からモーモー鳴き声がする。
姿は見えないけど、ここにカルピスはいる!



じいちゃんが木の間を縫って林に入って行って、カルピスを抱き抱えて戻ってきた。
カルピスは木に登って降りれなくなったのだ。
じいちゃんの腕の中で怯えていた。


カルピスはそれまでにも庭の木に登って降りれなくなって救出されていた事があった。
なんでまた登ったんだろう?と皆で不思議に思った。
しかもあんなに家から離れた林まで行って。




後で近所の人の目撃証言があった事を知った。
犬に追いかけられて一目散に逃げていたらしい。
それで林まで逃げて木に登って泣いていたのか。



カルピスは皆に心配され、大切にされながら無事帰宅し、さんざん怒られたのに
すごい勢いでご飯を食べるとまた出かけて行った。なんて元気なんだ。


それ以来、カルピスが外で少しでも高さのあるところに登っていると、
じいちゃんが抱き抱えて家に連れ戻していた。
じいちゃん、「カッピ、だめだめ。」と言いながら大切そうにカルピスを抱えていた。
じいちゃんはカルピスを王子とかカルとかではなくなぜかカッピと呼んでいた。
カルピスはカルピスで、怒られてるのに、じいちゃんに抱えられて嬉しそうだった。
カルピスは男性陣の事は好きだけど、女性陣にはあまり積極的に近づこうとしなかった。


しかしお母さんの事は好きだったらしく、よく足元にたたずんでいた。
お母さんが「カルピス、どうしたの」とそっと抱き上げると、
カルピスは自分に向けられた愛情をどう受け取っていいかわからない、というように戸惑っていた。
その様子がありえないほどどうしようもなく可愛いのだ。母、撃ち抜かれる。


カルピスは普段からあんまり積極的に人と関わろうとせず、一人で自由に過ごすのが好きな猫で
いつもどこかおずおずとした控えめな感じのする猫だった。しかしとてつもなく可愛い。
しばしばこうしてありえないほど可愛い性格を露出していた。これに家族全員撃ち抜かれていた。


お母さんの事はほんとにお母さんだと思っていたらしく、
前足を交互に握ったり開いたりしたり、凄まじいゴロゴロ音とともに
普段絶対聞けないような大きく嬉しそうな鳴き声をあげていた。




カルピスは私の弟という扱いで、
家族が私の事でカルピスに話かけるときは、
「カルピス、お姉ちゃん帰ってきたよ。」みたいな感じだった。


(悲報)ちなみにカルピスは私の事が嫌いだった。




子猫の時に突然もらわれてきて、
あまりに天使の様だったので私はすぐにカルピスに夢中になった。
それで毎朝学校行く前にカルピスの事を抱きしめていた。
ある日の朝も廊下で抱きしめてたら、


母 「なにしてんの、おまえ。」


高校生橘 「・・・カルピスが・・・可愛いんだもん・・・」


私は家族に笑われた。
いっその事カバンにカルピスを入れて学校まで連れていったら?とからかわれるほど毎日毎日カルピスに夢中だった。


でもカルピスは私にあんまりなついてくれず、
しかも数ヶ月経ったくらいから、私を避けるようになった。


朝起きたらまずはカルピスに会いに行くのが私のルーティーンだったんだけど、
数ヶ月経ったくらいから朝の時間帯にカルピスが見当たらなくなった。


カルピスはあまり人が出入りしない部屋に置いてあるタンスの上に避難して
私の追跡をかわすようになっていた。私がそこを見つけ、
「カルピス、おはよーう!!」
と声をかけると、カルピスの表情はサッと変わった。





高校生橘「ねえなんでカルピスは私のこと嫌いなんだと思う?」

ばあちゃん「あまりにもかまうからでしょ。ほっときなさい。」





それでもカルピスへのアプローチは続く。





高校生橘「カルピス、一緒に寝よーう!」


カルピスを抱っこして布団に潜り込んだ。
するとものの5分も経たないうちにカルピスは布団の中で後ずさりをはじめ、
足もとまで到達すると、ベッドの端からすりぬけ、床へストッと降りた。
そしてトトトトっとドアのところへ行くと、開けてー開けてー、とウロウロした。
扉を開けるとすごい勢いで廊下を走って、他の家族の部屋の前へ行き、開けてー開けてーとする。



高校生橘←涙目。



カルピスはそっとしておかれて、自由に過ごすのが何よりも好きな猫だったのだ。
よく家族が寝静まった深夜に居間を覗くと
カルピスがひとりですごく楽しそうに動き回っていた。


あと、当時はあんまりきづかってあげられなかったんだけど、
カルピスみたいに華奢で身体もそんなに丈夫そうじゃない猫は、
やたら抱っこされたり抱き締められたりするのは、物理的にも負担だったのかもしれない。
あと頬ずりも迷惑そうだった。




ちなみにカルピスという名前は、もらわれてきたその日に私がつけた。
迷いなく、カルピスで、と私が言ったら、家族皆、




「え・・・?カル・・ピス・・・?」




と苦笑いしながら難色を示した。
しかし少し時間が経つと、皆カルピスという名前以外ないみたいな事言ってた。
それほどにカルピスはカルピスだった。ものすごく似合った名前だったのだ。



カルピスはもらわれてきてから半年足らずで、じゃれついたり動くものに興味をしめしたりしなくなった。
だから猫は皆そうなのだと思ってたけど、YouTubeとかでいろんな猫見てると、
どの猫も結構大きくなってからもおもちゃで遊んでたり、
動くものにじゃれついたりしているので、それが一般的なのだとそこで初めて知った。



私、よく学校帰りにおもちゃやおやつを買って帰って、カルピスにプレゼントしてた。
でもおやつはともかく、おもちゃはわりとすぐ遊ばなくなってカルピスは見向きもしなかったので、
大人になるのが早い猫だったのかもしれない。





シャンプーも私が担当した。


初めてシャンプーした時に気づいたんだけど、
カルピスは本当はガリガリに痩せていてほとんど骨と皮だった!


一般的なシャム猫より若干毛足が長く、
毛質も柔らかかったので普通の体型に見えていただけだったのだ。


カルピスはひとりでいろんなところに出かけていって、
どこをくぐり抜けてきたのかわからないが妙な油臭い臭いを付けて帰ってくる事があったので、定期的にシャンプーした。
大人しい性格なのにわりとわんぱくだった。



カルピスはシャンプーが大嫌い。水がとにかくこわいのだ。
今思うとあんなに洗う必要なかった。
猫の唾液にはリンス効果があるので、基本的に犬みたいにシャンプーする必要はないと知らなかった。
すごく油臭い時だけ洗ってあげれば良かった。
すごく申し訳ない事をしてしまったといまでも思っている。



しかもカルピスは毛繕いがものすごく丁寧な男子だった。
家族が見惚れるほど綺麗に毛繕いする子だった。
カルピスが座って毛繕いし始めると
清らかなオーラが出るので皆が注目した。



カルピスは、干したての布団の匂いがいつもしていたので、
カルピスがごろんと横になっている時は、すかさず私、カルピスの背中に顔をくっつけていた。迷惑そうだった。



高校生橘「カルピスいい匂い!」

母「そんなによしかかったらカルピス重いでしょうよ。」

カルピス (姉の愛が重くてイヤだ・・・)



そんなカルピスがある日、
ところどころまだらに焦げ茶色の黒猫と一緒に
家の中を歩いているところを目撃してしまった。



高校生橘「カルピス、誰その子。」



私が追跡すると、2匹はやばい、といわんばかりに走った。
そしてカルピスが必死に小部屋に黒猫を隠そうとしている。
人間みたいで面白いけど、カルピス、誰よその子!



カルピスが必死に扉でもたもたして私を通せんぼしてる隙に、
その焦げ茶まだらの黒猫は空いていた小窓から外へ逃げた。
カルピスは静かに佇んで、ゆっくりまばたきしながら知らーんみたいな顔していた。



ばあちゃんに聞いたら、その焦げ茶まだらの黒猫は、川をはさんだお向かいの家の子だという。
名前を聞いたら、特にないそうだ。
飼い猫なのに名前がないなんて不思議に思えるかもしれないけど、たまにあることなんだよ。
私はその黒猫をコーヒーと呼ぶ事にした。



高校生橘「ばあちゃん、 またコーヒーが来てる!」


ばあちゃん「放っておきなさい。」


高校生橘「ばあちゃん、またカルピスとコーヒー一緒に出かけていったよ!」


ばあちゃん「カルピスもコーヒーも遊びたいんでしょうよ!」


高校生橘「ばあちゃん、またカルピスとコーヒーが一緒に橋歩いている!」


ばあちゃん「カルピスもコーヒーも放っておきなさい!」



むー。

面白くなかった。それからもちょくちょくカルピスとコーヒーが一緒に歩いているのを見かけた。
そのせいかカルピスはますます家に寄り付かなくなってしまった。



さらには、深夜になると、カルピスはこっそり家を抜け出すようになった。
家族は、カルピスが自由に外と行き来出来るように、隙間を開けておくようになった。



ある日の深夜、カルピスがこっそり外に出ようとしていたので、私もこっそり後をつけた。
それに気づいたカルピスは、一目散に走った。






真夜中の橋を駆け抜けるシャム猫と女子高生。


マテー。




しかしすぐにカルピスは私を撒いて、暗闇の中に姿をくらました。
橋を渡ってすぐのところにあるコーヒーの家の前での事だった。







それからしばらくして、お向かいの家でシャムの子猫が生まれたという。
アミーゴと名付けられ、飼われているという噂をきいた。
カルピスの子供だ!と思った。


私、実家にいる間はアミーゴに一度も会ったことない。
ばあちゃんとかはたまにお向かいの家に遊びにいくことはあったけど、
私はあまり接点がなかったので、
真夜中にカルピスを追跡してその家の近くまで行くくらいしかしなかった。






私が実家を出て1年経った頃、カルピスが亡くなった。
その1年、私は一度も家に帰らなかったので、
最後にカルピスに会ったのは家を出る当日かその前日だったと思う。
いつ帰っても、実家で暮らしてた時みたいに会えると思ってたのに、
突然それが叶わなくなった。





さらに実家を出て3年くらい経ったある日、一時帰省したついでにばあちゃんとお向かいの家に遊びに行ってみた。
すると、ぱっと見、カルピスの生き写しのような美しい猫がいた。





カルピス・・・?!





私は目を疑った。しかしよくみると顔立ちがカルピスにぜんぜん似ていない。
そして、雰囲気が外国の猫の様で、動きも残像が残るほどしなやかで、運動神経も良さそうだ。
成長したアミーゴだった。



しかもそのとなりにさらにちっこいカルピスみたいなのがいた。
あれは・・・カルピスの孫・・・?!




コーヒーはすでに亡き後だった。
両親はなくなったけど、娘と孫は同じ家で元気に暮らしていた。しかも両方の特徴を色濃く残していた。



たぶん顔立ちと運動神経の良さはコーヒー譲りだ。
あと毛の色がやや焦げ茶よりのシャム猫だ。
カルピスはグレー寄りだったので、色もコーヒーに似たらしい。



しかし外国の猫のような雰囲気と残像が残るほどのしなやかな動きはどこから・・・?
カルピスもコーヒーも日本猫の雰囲気だったので謎だった。
でもカルピスにも外国の猫の血が流れていると思われたので、
カルピスの代に出なかった特徴が娘と孫に出たのかなと思った。



娘と孫を遠くから眺めながら、私はカルピスに会いたかった。



カルピスは私が実家を出てから1年で亡くなってしまったけど、
その1年はどうかのびのび自由にして、
コーヒーやアミーゴとも家族みずいらずでいてくれてたのだったらいい、
どうかそうでありますようにと願ってやまない。

あと、ちゅーるを食べさせてあげたかった。





カルピスは、亡くなってから10年経っても20年経っても、
家族皆があれはほんとに可愛いいい猫だったと言う。
忘れられない特別な猫なのだ。



春なので、思い出してしまった。