「もうね、すっごい喜びようだったのよう!!」
電話がつながると同時に食事会の主催者マダムは心底驚きながらまくしたてた。
えっと、俳優のたまご男子が?だよねえ・・・。
「あなた舞台の後受付にお花預けてすぐ帰っちゃったでしょ。」
はい。相当さっさと帰りました。
だって私関係者じゃないから楽屋とか行けないと思ったし、
受付の人に誰宛で誰と誰からの花なのか言づけてお願いしたから
もうそれでいいと思った。
「彼ね、すぐに全速力で走ってあなた追いかけて駅まで走ったけど、もういなかったって。」
舞台衣装のままで?!
まあ、あの役なら道も歩けるし電車にも乗れるか。
ていうか出演者仲間との打ち上げ的なものはいいのだろうか。
ていうか、食事会の主催者マダムの驚きながらも少し悲しそうな感じと、話の内容から察するに、
俳優のたまご男子、ほとんど私の話しかしてないんじゃないだろうかと思われた。
実際に観に行ったのは私だけど、花を贈ったのは私だけじゃない。
それに、食事会の主催者マダムの方が、私よりもよっぽど真剣に俳優のたまご男子の事を応援していた。
主催者マダムにはお礼言ったのかな・・・。
私クラッとした。
ちょっと心配になってしまった。
主催者マダムの話はまだ続いていたけど、なんか頭に入らない。
仕事の時とかは一度に3つから4つの事を同時進行出来るのに、こういう時はからきしだめだな。
「それでそれで?どうだったの?」
えっ・・・?
ああ舞台の感想か。
舞台、脚本面白かったので、帰りは結構ほくほくしながら帰ってきた。
主役っぽい人以外も出演者全員がメインみたいなお話だったので、
俳優のたまご男子も常に出ずっぱり、セリフも多かった。
舞台の上の俳優のたまご男子、
なんていうか、ほんとに好きな事で仕事する喜びというか、輝きがあった。
私はお芝居の事とか全く分からないから、演技の事は何も言えないけど、
好きな仕事をしている人の姿見るのは好きなので、俳優のたまご男子の
存在感が素晴らしいと思った。
ていう感想だと現実的すぎるので、主催者マダムには、存在感に輝きがあったとだけ伝えた。
「・・・そう・・・やっぱり・・・?」
主催者マダムは心底期待を込めた様に言った。
それともう一つ、気になる事があった。
俳優のたまご男子と他の出演者の人達とでは明確な違いがあった。
他の出演者の人達は、声にハリがあり、セリフがとても聴き取りやすい。
俳優のたまご男子は、決して声が小さいわけではないのに、声がくぐもって聴こえる。
これは舞台の事や演技の事が何もわからない私にも気づけた。
この事は主催者マダムには告げずにおいた。
主催者マダムには要らない情報だし、万が一本人の耳に入ったらいい気はしないと思う。
学校にまで通って実際に仕事もこなしてるんだから、絶対本人も気づいている。
そうじゃないにしても、学校で指導してる先生や現場の人が指摘する。
嬉々として話す主催者マダムとの電話が終わりそうになった時、
電話した目的が果たされていない事に気づいた。
花束の領収書はいつ渡しに行ったらいいですか、と聞くと
あら丁寧にありがと、いつでもいいのよ、とマダムは言った。
電話を切ると、俳優のたまご男子の事を考えた。
(前のミュージッククリップのお仕事の方が似合ってたな。)