ぽとりと落ちたノスタルジア

最近の日記は数年前の日記を書いている。時々リアルタイム日記を挟みます。

イレギュラーな中国人1

そうそう、私中国人の友達いるの。
Sさんていうんだけど。



あれは15年前。



シンガポールに1人で行った夕方の事。
電車乗ろうとしてホームで待ってたら
見知らぬ日本人に話しかけられた。



その人はまぎれもない日本人だったんだけど、
ホームで会話してその流れで一緒に電車乗ったの。
行き先も同じだったんだと思う。






その日本人の方、Fさんという。
来たばかりの私とは逆で
その日はシンガポール最後の日で
翌日はタイに旅立つスケジュールで動いてたんだって。



この後どうするか聞かれたので、
予約してるホテルにチェックインする予定です言ったら
ホテルまで送ってくれるって事になったの。


シンガポール治安いいから平気そうだけど
親切な方と思って、最寄り駅で二人で電車降りて
送ってもらった。



ホテルのフロントに到着してバウチャーを提示した時、事件は起こった。



フロントのシンガポール人男性 「~~$#%~~~?!~&%$~~~!!」



ごめん、ぜんっぜんわかんないんですけど・・・。


せめて英語で話してください・・・。
出来れば私でも聞き取れる様にゆっくり・・・。



フロントのシンガポール人男性 「~~$WH#a%~~Aaa~&%NNZzw$~~~!!」



ホワット?
よく聞くと英語話してる事がわかった。
シンガポールの人の英語って訛りが強すぎてしかも超早口でなんも聴き取れん!!



おそらくこのシンガポール人はほぼ中国人であった可能性が高い。
これは今だからわかる事なんだけど、
シンガポールは李家のお膝元。
実は混血の中国人ばかりなんじゃないかな。




それで、事件はこの聴き取れない事じゃなかった。




フロントのシンガポール人男性 「~~$WH#a%~over booking~Aaa~&%NNZzw$~~~!!」



オーバーブッキング、って言った。
もしかして、部屋ないの・・・?!




サアー・・・・。


さっきまでの楽しい気分が、一気に暗転した瞬間だった。








ただならぬ様子に気づいたのか、
後ろで私とフロントのシンガポール人男性の様子を見守っていた
Fさんが隣に来た。




Fさん 「どうした?」

橘 「部屋がないみたいなんです。予約済みですって何度も伝えてるんですけど。」


バウチャーを握りしめた。



ちゃんと前もって予約して料金支払い済み。
バウチャーもあるんだから
部屋1室融通して。


これを英語で交渉する能力が私にはない。
やり取りで勝てる気がしない。





そしたら・・・!!






ずっと見ていたFさんが流暢な英語で
フロントのシンガポール男性とやり取りし始めた・・・!!!



Fさん 「ここのホテルは今夜は満室でもう動かせないって。
      その代わり今なら近隣のもっとグレード高いホテルに空きがあるか確認して、
      空きあれば部屋とれるってさ。」


橘 「そんな・・・今オンシーズンだからすごく高いんじゃ。」



しかも近隣はラグジュアリーホテルばかり。実際高かった。
途方に暮れた。




Fさん、フロントのシンガポール男性とのやり取りを見切っていた。



一瞬にして宿を失った瞬間だった。









Fさんは、焦っていた。
ホテルエントランスに設置してあった公衆電話に駆け寄ると、
どこかへ電話していた。やはり流暢な英語。


~女性1人~今夜から1室~


って話してる。

もしかしてどこかのホテルに電話してくださってる・・・?



Fさん 「俺の泊まってるユースホステルに掛けてるんだけど、
       聞いたら個室が1部屋空いてるってさ。どうする?」



宿泊料金聞いたらすごく安い。もうお願いします。全部お願いします。



ホテルじゃなくてユースホステルだから、
全然サービス内容が違う事はなんとなく分かってる。
でも野宿よりはるかにいい!!




Fさんが予約完了とばかりにガチャン、と受話器をおいて振り返った。




Fさん 「部屋とれたよ。」



お礼言った。すごくお礼言った。



Fさん 「とりあえずメシ食いにいこ。」




Fさん、げんなりしていた。
せっかくのシンガポール最後の夜に
私の面倒みるだけになってしまった。
ごめんなさい・・・。







ユースホステルに向かう前に晩御飯を一緒に食べに行った。
屋台みたいなオープンテラスみたいなとこでご飯食べて
その後、電車でユースホステルの最寄り駅まで移動して、
そこから歩き。



車道側は危ないからと気を遣ってくれたり、
駅からホステルまでの行き方もきちんと道覚えられる様に
説明しながらゆっくり案内してくれた。


ホステルに着くと、係の男性と取り次いでくれて、
予約した個室まで案内してくれて、
さらにバストイレの場所やこのホステルのシステムも説明してくれた。


一通り案内してくれると、


「じゃ、俺の部屋は上の階だから。戸締りはちゃんとする様に。おやすみ。」


と言って階段のぼって行ってしまった。


私がはっとしてお礼言うと、
もう姿見えなかった。
このホステル、ひとつの建物のあちこちに部屋が内臓されてるみたいで階段も狭かったのだ。


受け取った鍵で個室ドアを開けると、4~5畳くらいの部屋にパイプベッドがひとつ。
その脇にサイドテーブルがひとつとパイプ椅子がひとつ。窓もたったひとつだけ。
カーテンはついてなく、すりガラスだった。


お風呂行く前に、ベッドに横になってさっきまでの目まぐるしい展開を考えた。


ほんとは日本から旅行会社経由で予約したホテルに泊まるはずだったのに、
今は見ず知らずの場所で寝転んでる。
天井についている巨大なプロペラを眺めながら、
すごく不思議な感じがした。


それに、親切なFさん。
夕方の駅でどうしてあのタイミングで私に声掛けてくれたんだろう。
私も災難だったけど、Fさんが一番迷惑被っている。


ていうか旅行会社ひどい・・・!!
オーバーブッキングとかないですよね?と念押しして確認したのに。
大手の旅行会社とは違う無名のとこ使ったから、
そういうとこなんの保障もないのかもしれない。
とりあえず帰国したら返金だけはちゃんとしてもらわないと。


私も私で、たいして英語力も対応力もないのに一人で旅行するなよて感じだけど。
今まで一度もツアーを使った事はなかったし、
大手の旅行会社ではないところ経由でしか予約した事はなかったけど、
こんな事それまで一度もなかった。
でも、考えが甘すぎた。



いろいろぐるぐる考えてたら、
かえって面白くなってきちゃって、
この状況を楽しもうと思えた。



さて、お風呂。


コソリ。


さっき教えてもらった通りに
バスルームに向かう途中、
いろんなところから明かりがもれていて雰囲気も賑やかだった。





(なかなかこんなとこ泊まれないよね。)






ふふっとなごみながらバスルームに到着。


鍵のついた個室だけど脱衣所はない。
それっぽいカゴが扉近くに置いてあったけど、
全部中に持ち込んだ方がいいだろうな。


バスルームっていうかシャワーブースだ。
床のタイルには靴の足跡がついていた。
シャワーかけてみたけど、落ちない。
こすってみたけど、落ちないぃー。
諦めた。

たぶん施工時についた業者の足跡だ。
シャワーは水じゃなくてちゃんとお湯だった。
よかった。


部屋に戻ると結構早めに眠りについた気がする。









翌朝。




部屋のドアを開けると、ドアノブに空のショッパーがいくつか掛かっていた。
付箋が貼ってあって、お土産買って荷物が増えたら使うようにとの事だった。


Fさんだ!
最後にもう1回お礼言おうにも、早朝にすでにタイへ旅立った後だった。
飛行機早いって言ってたし。


ショッパーをトランクに閉まって、
ダイヤル式の鍵掛けて、大きく息をついた。
Fさん、去った後まで親切なんて。


しばし考え込んで、
顔を洗いに行った。
身支度を整えて、
トントントン・・・
階段降りて
ラウンジ(というか大広間)へ向かった。


窓が大きくて朝日がたっぷり入るそこは、
事前に聞いていた様に朝食会場になっていた。
バイキング形式。
しかも宿泊費に込みだというから驚いた。


座って朝ごはんを食べていると、
バタン。
勢いよくすぐ近くの部屋のドアが開いて
黒髪の日本人みたいな人が伸びをしながら出て来た。


「あれ?日本人?」


珍しそうに話しかけて来たその人がSさん。

これがSさんと私の出会いだった。