その黒髪の日本人みたいな男性は、
私が座ってるところから少し離れたとこでテーブルについた。
黒髪日本人男性「観光?」
橘 「はい、そうです。観光ですか?」
黒髪日本人男性 「俺はもう3か月くらいここに住んでる。もうしばらくいるつもり。」
橘 「日本には帰る予定ないんですか?」
黒髪日本人男性 「俺、中国人だよ。」
?!
だって、もんのすごい流暢に日本語話してるけど?!
私が日本人とのハーフなの?って聞いたら、
「いや、俺生粋の上海人。上海生まれ、上海育ち。」
って言われた。
そこで自己紹介しあったんだ。
黒髪日本人に思えたけど実は中国人で、名前はSさん。
名前の漢字はどう書くかまで
日本のことわざで教えてくれた。
ほんとに日本人みたーい・・・。
さらにお互いの年齢知って驚いた。
同い年だったんだよね。
同世代とかじゃなくて
ほんとに生まれた年一緒だった。
当時Sさんも27歳、私も27歳。
前日知り合った日本人のFさんはすごく年上に思えたけど、
SさんはFさんよりずっと若そう。
そう思ってたけど、まさか同い年とは。
Sさん、私の年齢知るまで一回り年下だと思っていた。
私、Sさんの年齢知るまで一回り年上だと思っていた。
Sさん最初は驚いていたけど、
何かに感づいて
すぐムッとした表情になっていた。
Sさん 「橘さん、俺の事、一回りくらい年上だと思ってたデショ?」
橘 「えっ・・・そんな事な・・・。」
思ってました。
ごめん・・・。
Sさん「よっくまちがわれるんだよなー・・・。」
そう言って朝ごはん食べ始めた。
なんかSさん面白いかも。
でも、私には気がかりな事があって単純に会話を楽しめなかった。
手元には航空券。
これもホテルの予約と同時に同じ旅行会社に取ってもらったものだ。
すごく不安だった。航空券までオーバーブッキングだったら
私日本に帰れない。
リコンファーム・・・した方がいいよね・・・?
実はSさんと出会う少し前に、
ホステルの廊下にあった公衆電話でタイ航空に電話しようとしたんだ。
(往復ともにタイ航空利用。)
そしたら電話自体通じなかったんだ。
それでとりあえず朝ごはん食べながらどうしようか考えていた。
朝ごはんはもう食べ終わっていた。
タイ航空に電話してリコンファームしないと。
そうだSさんにここの公衆電話の使い方を聞いてみよう。
橘 「さっきここの公衆電話から電話しようとしたんだけど、つながらなかったの。
電話が壊れてるのかな?」
Sさん 「そんなことない。」
なんかこのパターン、前にもあったような。
そうだあれはイタリアで興味本位で公衆電話使ってみたい!って
電話かけようとしてかけることが出来なかったんだった。
日本に帰ってきて少しして、
現地に住んでる日本人の人とSNSでやり取りしてた時に
イタリアの公衆電話のかけ方聞いたら、
イタリアの公衆電話は誰もかけ方わからない、そもそも壊れてる。って教えてくれた。
当時のイタリアはたしかにこんな適当な国だった。
ここのは壊れてないかもしれないけど、
シンガポール、ここもか、と思った。
Sさん 「携帯は?」
橘 「持ってない。」
正確には日本でしか使えない携帯電話しか持ってない、だ。
なんで出国前に国際仕様にしておかなかったのかというと、
それまで旅行してて電話が必要になる場面なんてなかったからなんだよ。
もし必要になればホテルの電話使えばいいと思ってた。
そのホテルは宿泊すら出来なかったんだけど。
この時まさに
何が何でも電話が必要って思った。
Sさん 「どこに電話するの。」
橘 「タイ航空。」
Sさんは一回部屋に引っ込んで
戻ってきた。
そこで私は昨夜の出来事をSさんに話した。
ほんとは泊まるはずだったホテルをオーバーブッキングされて宿なしになってしまった事。
偶然知り合った日本人に助けてもらって、
その人が今朝まで泊ってたこのホステルに無事部屋を取ってもらえた事。
ホテルの予約がそんなことなら航空券もあやしいからリコンファームしようと思った事。
それを聞いたSさんは私が利用した旅行会社に対して怒っていた。
Sさん 「なんだその旅行会社!!ありえない!!俺昔JTBにいた事あるからそれがどれだけありえないか知ってるんだよ!!」
ってカンカンだった。
Sさん日本には来た事ないのにJTBにいたの?
中国支社かな。
ていうかそんなに怒ってくれてありがとう。
そうだ、この近隣に公衆電話ないか聞いてみよう。
橘 「あの・・・。」
その瞬間、Sさんが近くに来て航空券をつかんだ・・・!!
Sさん 「助けて欲しいならはっきりそういえよ!!だから日本人はだめなんだよ!!」
日本人全否定。
ガーン・・・。
Sさんは席に戻ると、自分の携帯電話を取り出した・・・!!いつのまにもってきたの?!
Sさん 「Thai Airways・・・Thai Airways・・・。」
もしかして、リコンファームしてくれてるの・・・?
Sさんは流暢な英語で航空券を睨みながら通話していた。
話し終わると電話を切って、
Sさん 「大丈夫だってさ、ほら。」
と言って航空券を投げてよこした。
ポカーン。
橘 「あ・・・ありがとう。リコンファームありがとう。」
Sさん 「ああ。」
Sさんはすっかり不機嫌になっていたのでややぶっきらぼうだった。
それまでSさんと接していて、
あれえ?と思ったんだ。
なんか私が知ってる中国人のイメージと乖離していた。
ていうか、Sさん
まるで日本人そのもの。
日本語が完璧すぎるだけじゃなく、
日本の文化や社会事情にやたら詳しい。
でも日本には一度も来た事がないって。
英語は中国人にとって簡単に習得出来るものらしいから珍しくないけど、
日本語はここまでうまく話せる様になるものなの?
しかもSさんは日本語を独学で覚えたって言ってた。
日本のアニメとかゲームとかが好きでネットでいろいろ覚えたんだって。
あと、雰囲気が日本人そのもの。
性格もまるで日本人みたい!
しかもSさん、おおらかで堂々としてて自由に生きてる。
私、Sさんと話すの楽しいと思った。
それで、朝ごはん食べ終わってもブランチくらいの時間帯まで
そこのラウンジ(というか大広間)で
Sさんと話していた。
他の宿泊客はまだ寝てるのか誰もいなかった。
Sさんとも話したいけど観光にも行きたいな、と思っていたら会話が途切れた。
橘 「そろそろ出かけようと思う。」
Sさん 「俺もうひと眠りする。」
橘 「Sさん、毎朝ここで朝ごはん食べてる?」
Sさん 「うん。」
やった明日もSさんと話が出来る。
そうしてその日は観光に出かけたんだ。