ぽとりと落ちたノスタルジア

最近の日記は数年前の日記を書いている。時々リアルタイム日記を挟みます。

弟子にされそうになった話<依頼その1編・中庭つづき>

hotakatachibana2018-12-06

相変わらず中庭で話し込んでいた。
ふと会話が途切れたので、私、周囲の楽しそうな雰囲気を見渡していた。




「儲からない仕事だよなあ。」


突然、その人が遠くを見つめながら、ぽつり、と言った。


「はい?何ですか?」


「俺の仕事。コンサルタントは最終的に閉じる役割だからな。」




ああ、なるほど。そういうことか。
私は一気に何を言わんとしているのかわかった。




つまり、真にお客様の事を考えて仕事するなら、確実にその人の問題を解決してあげたり現状を変える必要があれば改善させる事になる。すると必然的に、どこかのタイミングでお客様は自分の元を離れていくことになり、全く異なる依頼を持ってこない限り、リピーターになる事はない。新規顧客を獲得するよりリピーターを作った方が労せずして儲かる。そういうことですね?と私は言葉を結んだ。



その人は、よく知ってんな。と言った。


知ってるも何も、普通に考えたらそうでしょ。



ていうか、この人資産もあって世の中の会社員みたく会社の枠に自らのアイデンティティを押し込めて毎日毎日働く必要もなくて、しかも自分の強みを生かして自由に仕事してるんだから、そこだけ見れば結構幸せな事だと思うけどな。

この時の私はまだ、この人の心の奥に抱えてるものが全くわからなかった。






その人はさらに言った。


「巨大なビルにピカピカのオフィスを構えてすごく儲かってるとこもたくさんあるんだぜ。」



すごく儲かって巨大なビルにピカピカのオフィスのコンサルタントが、必ずしもリピーターだけをたくさん抱えててしかもそのリピーター達が皆問題解決出来ずに延々と契約し続けてるとは限らないですよ。と私は伝えた。その人は納得してなさそうだったけど。



もし仮に、と私は言葉を続けた。



もし、問題解決出来ずに延々と契約し続けてるリピーターばっかりだったとしても、それはそれで需要があるから成り立ってるって事でしょ。世の中には自分の抱える問題が解決してしまったら困るという人もいる。あと、そういうコンサルタントにお願いする事自体に安心して何もしない人とかステータスを感じるだけの人とかもいるかもしれない。


と私が言い終わる前に、その人の目は鋭くなって「おぬしはほんとに鋭いな。」と言った。



もしかして、この人の抱える顧客の中にそういう人が実際にいるんだろうか。もしいるとしたらどれくらいの期間契約し続けてるんだろうか。ちょっと気になったけど、この人の抱える顧客と私は一切関係ないので興味本意で聞くことは出来ない。



私 「ちなみに私は問題解決を望んでいます。リピーターになるとしても、その時は正当な依頼理由があるので安心してください。・・・それにしても・・・、もしリピーター作るだけのコンサルタントや会社があったら、私は一切利用したくないし近づきたくないけどな。あきらかにお金と時間を無駄にしてるでしょ。」



その人 「なんで俺がこんな儲からない仕事してるかわかるか?」





さあ? ひまなの?   ←こんな失礼な事面と向かって本人には言えませんでした。




その人  「おぬしみたいなのを助けたいからだよ。」

そう言って、私の頭をポンポンとたたいた。



大変ありがたいけど、だんだんと私の嫌な予感は増してきていたのだった。




その人は、電車は大丈夫か、と言ったので私が自分の終電時刻を告げると、そろそろ帰るか、と立ち上がった。