ぽとりと落ちたノスタルジア

最近の日記は数年前の日記を書いている。時々リアルタイム日記を挟みます。

*ティースプーンの油

hotakatachibana2006-11-13

アルケミストを読み解く5です。


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p38の老人の話です。


〜〜〜ある店の主人が、世界で最も賢い男から幸福の秘密を学んでくるようにと、息子を旅に出した。その若者は砂漠を四十日間歩き回り、ついに山の頂上にある美しい城に行きついた。賢者が住んでいたのはそこだった。〜中略〜賢者は注意深く、少年がなぜ来たのか説明するのを聞いていたが、今幸福の説明をする時間はないと、彼に言った。そして少年に、宮殿をあちこち見てまわり、二時間したら戻ってくるようにと言った。『その間、君にしてもらいたいことがある』と二滴の油が入ったティースプーンを少年に渡しながら、賢者は言った。『歩きまわる間、このスプーンの油をこぼさないように持っていなさい』少年は宮殿の階段を登ったり降りたりし始めたが、いつも目はスプーンに釘づけだった。二時間後、彼は賢者のいる場所に戻ってきた。『さて、わしの食堂の壁に掛けてあったペルシャのつづれにしきをみたかね。庭師らが十年かけて作った庭園を見たかね。わしの図書館にあった美しい羊皮紙に気がついたかね?』と賢者が尋ねた。少年は当惑して、『実は何も見ませんでした』と告白した。彼のたったひとつの関心事は、賢者が彼に託した油をこぼさないようにすることだった。『では戻って、わしの世界のすばらしさを見てくるがよい。彼の家を知らずに、その人を信用してはならない』と賢者は言った。少年はほっとして、スプーンを持って、宮殿を探索しに戻った。今度は、天井や壁に飾られたすべての芸術品を観賞した。庭園、周りの山々、花の美しさを見て、その趣味の良さも味わった。賢者のところに戻ると、彼は自分の見たことをくわしく話した。『しかしわしがおまえにあずけた油はどこにあるのかね?』と賢者は聞いた。少年が持っていたスプーンを見ると、油はどこかへ消えてなくなっていた。『ではたったひとつだけ教えてあげよう』とその世界で一番賢い男は言った。『幸福の秘訣とは、世界のすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ』〜〜〜






こんなに芳醇かつ竹を割ったようなたとえができるなんてすごい!先をこされた感があるけど、きっと私にはできない。でも、「スプーンの油を慎重に持ちながら、世界の素晴しさを味わうこと」の大切さは、なぜか小さいころから知っていました。

10代の終わり頃には実践しはじめました。けれど最初のうちはなかなか思うようにいかず、世界の素晴しさを味わうときにはスプーンの油をこぼしそうになり、スプーンの油に集中すると、私を待っている世界の素晴しさから取り残されたようになっていました。それでもスプーンは持ちつづけたし、油も失いませんでした。世界の素晴しさも味わってきました。そうして6年ほど経った頃、けして苦痛を感じることなく、この二つのことを同時に行えるようになったのです。

どちらか片方ばかり追い求めるとむなしさが訪れることをなぜか私は知っていたのでそうしませんでした。