ぽとりと落ちたノスタルジア

最近の日記は数年前の日記を書いている。時々リアルタイム日記を挟みます。

霊と足音1

冬のノスタルジア1。





最近、晴れの日の日中はもうすっかり春だけど、



そういえば実家にいた頃は
今くらいの季節でも解け残りの雪がまだあったな、
と思い出してて思い出した。



私が小学生の時の日記をひとつ。



あれは1月だったか2月だったか
もしかしたら3月だったかもしれないある夜の事。




怪現象が起こった。







その数日前に近隣で亡くなった方がいたの。
たぶん寿命か病気か何かでだったと思うんだけど、
もし寿命なら1〜3月は亡くなる方多いんだって。


知り合いの知り合いに葬儀関係の仕事してる人がいて、そう聞いた事がある。




それで、その時私は小学生だったんだけど、
何年生だったか思い出せない。
プッチがまだ生きてたかどうかも思い出せない。(チビは確実にいた)



でもあの夜の怪現象は、いまだにはっきりと覚えている。




当時近隣で人が亡くなると、近所の人が皆で集まって弔っていた。
お葬式やお通夜だけでなく、結構連日
近所の各家から1〜2人くらいずつで故人の家に行き、
故人を偲ぶ為に集まっていた様だ。



うちはばあちゃんが連日故人の家に行っていた為、
夜は毎日遅くまで不在だった。



その時期、偶然
家にはお母さんと私しかいなくて
それがあまりに心細くて
連日私は夜が来るのがものすごく憂鬱だった事を今でも覚えている。


私、たしかに当時から人並みに暗闇に対する怖さや
夜に対する恐怖心は持ち合わせていたけど、
そこまで過剰に怖がるような子供ではなかった。



それが、その時ばかりは
夜が来るのが怖くて怖くて憂鬱でどうしようもなかった。



人が亡くなると、
何か異様な気配が満ちるんだよ。



私はばあちゃんに、
家にお母さんと2人だけでいるのは怖いから亡くなった人の家に行かないで家にいて!!と懇願した。



ばあちゃんは近所の人皆と仲良くて、
亡くなった人がいるのにいかないなんてありえないので、私の懇願に対して
何ばかな事言ってる、
なんにも怖いことなんかない!!と取り合ってくれなかった。





ばあちゃん、基本何も怖いものがない。




昔夏にばあちゃんと一緒に庭いじりしてて、
イモムシが出て私が震え上がると、



「こんなもん何も怖くない!!」



素手でイモムシを掴んで、遠くに投げた!!



その時私は、
飛んでったイモムシよりも素手でイモムシ飛ばせるばあちゃんが怖かった。




虫を前にしたばあちゃん超強かった。





そんなばあちゃんに
私がどれほどこわい思いをしているか伝えるのはいつも至難の技だった。




私は必死に
ばあちゃんに故人の家にいかないで
家にいて欲しい旨訴えた。


私があまりに怖い怖いとしつこく懇願するので、
とうとうその日はばあちゃんが夜出かけずに
家にいてくれる事になったの。



ばあちゃん、お母さん、私、の3人が居間にいてテレビがついていた。



すっかり夜も更けて、
たぶん21時台くらいだったと思う。





ザク•••ザク•••ザク•••





突然、雪の上を誰かが歩き回る音が外から聞こえてきた。




その時の雪は、サラサラのパウダースノーじゃなくて
一回解けた雪が再度凍ったザラザラの雪だった。
だからその上を人が歩くとざくざく音がするのだ。



当時のうちは路地の近くが玄関、そのすぐ横が居間、居間の隣がキッチン、とあって、
キッチンの前が庭になっていて植木をはさんでチビの犬小屋があった。



居間のテレビが置いてある壁から続きの
仕切りを挟んだキッチンの壁には作り付けの食器棚があって、
特にその食器棚のあたりまでの外を歩き回っている音が聞こえた。




私は震え上がった。










その足音、人が歩いている様な足音とはいえ何か不自然だった。
なんとも言えない異様な感じなのだ。



お母さんもその異様さに気づいて、
足音聞こえる、と言って座りながら動きを止めていた。




ばあちゃんは•••。





テレビ見ながらなーんにも気にしてない。
いつも通り!!






ばあちゃん 「○○(故人の名前)が来てるな。」


ばあちゃん 「○○が、なんで今日は家に来ないんだって言ってるんだよ。」




するとばあちゃんは、
足音がしている方に向かって大きな声で言った。




ばあちゃん「○○、明日は行くから、今日はひとまず帰れ。」




まだ足音が続く。




ばあちゃん「○○、明日は行くからな。」




その後もばあちゃんは何度か足音に向かって声掛けしていた。



すると、じきに足音がやんだ。




お母さんと私は、止まったね、と顔をみあわせた。




ばあちゃんは相変わらずテレビを見て
なーんも気にしてない!!
いつも通り!!




ばあちゃんは霊に対しても強かった。





対して私、その日は怖くて怖くて、
早く朝になれと思いながら眠りについた。









何年かしてその時の事を振り返った時、
人間の仕業だった可能性も考えたんだ。



でもどうしてもそうは思えない要素がいくつもあった。



もし人間だったとして、
やって来た時と去る時問題。



路地の方から敷地に入ってきて
玄関前を通って
キッチンの方まで行くには居間の前を通らなくてはならない。
窓に人影がうつってしまうし足音もするので、
ずっと居間にいた3人に気づかれる。




玄関と反対側の隣家との間の小道の方から木々の間をくぐり抜けて庭に入って
キッチンの方まで来る事も出来るかもしれないけど、
段差があったり鉢があったりその上雪がかぶさってたりで
暗がりではだいぶ足場が悪いし、やはり足音がする。



反対の隣の空き家の敷地からやってきて、
境目の木々をくぐり抜けて入ってくる事も出来るといえば出来る。



しかしいずれの経路であっても
犬小屋にいるチビに気づかれてしまう。
チビはキッチンと目と鼻の先の位置に繋がれていた。
チビは人が来ると、寝ていても必ず立ち上がるので、
その動きにともなって鎖の音が聞こえるのだ。




チビの鎖の音は沈黙していた。





突然足音が始まり、
ばあちゃんの声掛けによりぴたりとやんだ足音。






当時の事をばあちゃんとお母さんに聞いてみようかと何度か思ったんだけど。



おそらくばあちゃんもお母さんも覚えてないだろうと思って確かめようがない。




うち、すでに家を建て替えてしまっていて、
当時の家ではなくなっているんだけど、
2人に昔の家の間取りについて話したら、
すでにそれすら覚えてないんだよ。
無理そうだ。








あの足音の正体はいまだにあの夜の昏い空気の中に眠ったままだ。